定年退職まで、半導体を開発、製造する会社の、設計部門を受け持つ関連会社に所属していました。製品の信頼性を担当していたこともあります。そのため、半導体の寿命予測業務も行ってきました。古い時代のことですが、考え方はあまり変わらないでしょう。
半導体の寿命を求める方法
半導体にも、もちろん寿命はあります。半導体には、ほゞ永久的な寿命があるなんてことは信じないで下さい。地球上に存在するものは、どんなものでも劣化するからです。
例え石ころだって、太陽からの紫外線や、風雨でボロボロになります。
では、半導体の寿命はどのように求めているのでしょうか?
まず、半導体の劣化要因を調べると、高電流を流した時や、高温や低温にさらされた時、等が思い浮かびます。もちろん、これ以外にも劣化要因はあります。
最も、一般的な寿命の劣化要因は、経験的には温度です。半導体に電圧を印加すると、電流が流れます。電流が流れると、抵抗成分の影響を受けて、半導体の温度は高くなります。
発熱の状態は、半導体の用途などで決まるため、一律ではありません。半導体がパワーIC等では、熱くて触れない温度になります。このような時には、放熱板などを半導体に付けて、熱の発生を極力抑えます。
半導体の劣化は、このような高温度条件で加速されます。但し、半導体の劣化要因は、故障モードによっても様々です。
例えば、故障要因がホットキャリアの場合には、低温の条件で加速することがあります。
理想的な半導体の寿命予測
半導体は、P型やN型の基盤上に微小な素子を作って、微小なアルミ配線などで接続しています。微小な素子を微小なアルミ配線で接続することで、とっても小さな回路が動作します。
但し、理想的な寿命の求め方は、寿命を求めようとする素子だけを基板上に作って行います。いわゆるTEG(Test Element Group)です。
理由は、様々な素子で回路を形成すると、劣化した時に、何が原因なのか分からなくなるからです。
このTEGで、各素子の寿命を求めます。
寿命予測の例
半導体の寿命の求め方は、温度や、電圧などを標準値よりも悪い条件で評価して、特性を劣化変動させて行います。
そして、決められた値以上(製品特性に影響するような変動値)に、劣化が進行した時を、不良とします。但し、前提条件は、故障モードが、標準条件の時と、同じでなければなりません。加速条件が厳し過ぎても劣化の状態が変わってしまうので、寿命の推定ができなくなります。
この時、寿命の考え方は、標準値よりも悪い条件で評価しているので、実環境下の条件で何年に相当するのかを求めることです。そして、頻繁に活用するのが、アレニウスの式です。
《アレニウスの式とは?》
アレニウスの式は、1889年にスウェーデンのS.A.アレニウス氏から提唱されたもので、次のように表されます。
k=Aexp(-Ea/RT)・・・(1)式この式で、k:反応速度定数、T:絶対温度(ケルビン)、Ea:活性化エネルギー
A:定数、R:気体定数
(1)式を用いて寿命を算出します。活性化エネルギーEaは、加速試験で求められる値を入れて算出します。
電圧、を3〜4条件(標準電圧から少しずつ上げた条件、但し最大定格値は超えない。)同様にして、電流を3〜4条件(標準電圧から少しずつ上げた条件、但し最大定格値は超えない。)
これらに加えて、Tj(素子の温度)を同様にして、高温と低温で設定。ここで、高温度は高温側(最大定格温度)低温側(-40℃、-20℃、室温等)を選択して対応します。
《評価数》
TEG評価結果は、統計処理します。そのため、データとして使えるように、評価サンプル数は、20個以上で行います。
たったの20個かと思う人もいるでしょうが、上記条件のそれぞれで20個です。上記した条件だけでも、総計320個のTEGが必要です。
《評価時間》
16h,24h,168,500,1000h等で判定します。
《評価判定項目》
TEG素子によって、評価判定項目は違いますが、hfeや、Vbe特性および周波数特性等の変化をモニターします。各TEG特性は信頼度試験(加速試験)で劣化変動するので、例えば5%や10%、20%変動した時を不良とします。これらの素子が変動して、製品の特性に影響する変動値で判定します。
例えば、168hで5%変動したTEGが1個あれば、1/(20+1)=4.7%。これをワイブル確立紙にプロットします。同様に、500h試験で3個なら、(1+3)/(20+1)=19.0%、をワイブル確立紙に記載します。2点では少ないので、1000hで10個なら、(4+10)/(20+1)=66.7%の結果もプロットします。
《ワイブル確率紙》
ワイブル確率紙はワイブル分布で作られた確率紙です。スウェーデンのワイブル氏が金属材料の疲労寿命を評価した際に、この確立紙に直線でプロット出来るため活用したものです。
ワイブル分布は、指数分布を拡張したような分布です。ワイブル分布は、寿命判定をする時にマッチするため、半導体の寿命試験などでは広く使われています。
活性化エネルギーは、ワイブル確率紙でも求められます。
《活性化エネルギー》
初期の状態(良品特性)から、特性変動等して、別の状態に変わる時に必要なエネルギーのことです。
《寿命判定》
試験条件ごとにワイブル確率紙に結果をプロットします。ここで、前提条件は、試験結果がワイブル分布に載っていることです。つまり、ワイブル確率紙で直線にプロットできなければ、故障モードが変わったことを意味します。そのため、寿命推定には使えません。
試験条件ごとの結果をプロットして、試験条件によって、何倍なのかを読み取ります。そして、デバイスの使用環境温度等と試験条件等を比べて寿命を判定します。
実際の半導体の寿命予測
理想的な半導体の寿命予測は、前述したように各素子のTEGで評価されます。但し、半導体工場などで実際に行われる信頼度試験は、半導体製品になった状態で評価されます。
個別の素子のTEG評価は、時間的な制約や、費用の制約などから対応できないからです。
半導体製品は、複雑な多数の回路がIC基盤上に作られたものです。製品の信頼度試験は、これらを一括評価することになります。試験条件も理想的なものに比べると少ないのが実情でしょう。
まとめ
半導体にも当然、寿命はあります。本来なら、個別の素子ごとのTEGで、信頼度試験(加速試験)を行って、故障モード毎の活性化エネルギーを求めます。
そして、故障モード毎の算出式に活性化エネルギーを入れることで、使用環境での寿命は求まります。
但し、実際には個別の素子毎の評価ではなくて、ICやLSIの完成品で評価されることが多いでしょう。TEGによる評価は、新しい素子等を、開発した時に、研究所等で行われるのが実態でしょう。
ICやLSIの完成品の判定は、膨大な特性評価結果をテスター判定で行います。完成品の加速試験方法は、TEG評価で紹介したような考え方で行われるでしょう。
また、蛇足ですが、これは、半導体の寿命に関する試験方法です。
半導体の完成品の選別試験は、全数テスターで判定しています。